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ハードボイルドにニュースの解説をします。

2018年2月13日 トランプ氏の長男に白い粉入り郵便物

【読売新聞】トランプ氏長男に白い粉入り封筒、妻ら病院搬送
 ロイター通信などによると、トランプ米大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏宛ての封書から白い粉末が見つかり、開封したジュニア氏の妻バネッサさんらが12日、病院に搬送される騒ぎがあった。

 粉末は有害物質ではなく、けが人はいないという。

 同通信によると、バネッサさんは同日午前、ニューヨーク・マンハッタン中心部の母親の自宅で封書を開けた後、気分が悪くなったと訴えた。バネッサさんや母親ら3人が、通報を受けて駆けつけた消防隊員らによって病院に搬送され、念のため検査を受けたが、健康状態に問題はない。

 ニューヨーク市警などが捜査中で、封書はボストンの消印が押されていた。一部メディアは白い粉末は「コーンスターチ」だったと報じている。

(http://www.yomiuri.co.jp/world/20180213-OYT1T50023.html?from=ytop_main6より抜粋)

 

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(画像は炭疽菌)


アメリカのトランプ大統領の長男であるジュニア氏宛ての正体不明の郵便物に”白い粉”が入っていて、開封した妻のバネッサさんらが念のための措置として病院に搬送されたという。
このニュース、”白い粉”の正体はコーンスターチだったという話で、要は「いたずら」であるのだが、それだけで終わらせてはいけない大問題だ。

と言うのもアメリカでは以前、同様の手口でテロ事件があったのだ。
日本人は”白い粉”というと麻薬などの薬物を想像しがちだが、今回の場合考慮しなければならないのは生物兵器だ。2001年、アメリカで郵便封筒に「炭疽菌(たんそきん)」という菌を入れたものがテレビ局や出版社などの大手メディアや上院議員宛てに送られ、5名が「肺炭疽症」という病気を発症して死亡、17名が負傷した。この事件は同年の同時多発テロから数日後のことであり、アメリカ中が大騒ぎになった。

炭疽菌に感染すると「炭疽症」という病気になる。感染経路によって症状が変わるが、皮膚の傷口から菌が体内に侵入する「皮膚炭疽症」や炭疽菌に汚染された食品を摂取して感染する「腸炭疽症」がある。治療を受けなかった時の致死率は皮膚炭疽症で20%強、腸炭疽症では最大60%と言われている。ただ、炭疽菌は菌であるため、抗生物質で治療ができる。ゆえに皮膚炭疽症や腸炭疽症であれば命に別状はほとんどない。
しかしもうひとつ、炭疽菌の芽胞を吸い込んでしまうことで発症する「肺炭疽症」というものがある。これが非常に危険なのだ。初期症状は風邪に似ているのだが、風邪だと思って放置すると24~36時間以内に死亡する。致死率はほぼ100%だ。重症化してからでは抗生物質の投与もほとんど無意味で、検査についても炭疽症を疑って検査をしなければ見逃す可能性が高い。

このような特性から、炭疽菌はアメリカでテロに使われただけでなく、かつてのソ連イラクなどの国が生物兵器として開発していたと言われている。また、驚くべきことに日本でもあの「オウム真理教」(現在ではアレフなど名称を変更しいくつかの分派に分かれている)が国会議事堂や皇居周辺で炭疽菌を散布したテロ事件があるが、このテロは失敗に終わっている。オウム真理教についてはご存じの通り、テロが成功してしまった地下鉄サリン事件のほうが有名だ。

そしてこの炭疽菌、今現在アメリカと火花を散らしている北朝鮮とも関係がある。北朝鮮炭疽菌生物兵器としてほぼ確実に開発しており、米科学者連合(FAS)や米国防総省をはじめ様々な研究機関が北朝鮮はほぼ確実に生物兵器としての炭疽菌を所有していると警鐘を鳴らしている。
ここまでくればなぜ今回の不審郵便物が大きな問題と言えるかはわかるだろう。この郵便物は北朝鮮工作員トランプ大統領の周辺人物を暗殺するテロ行為のために用意したものの可能性があるのだ。

しかし、これはあくまで可能性があるという話に過ぎない。私は実際のところ、今回北朝鮮は無関係ではないかと考えている。と言うのも昨年12月の米CIAの発表によれば、北朝鮮の核開発は「あと数ヶ月で完成」の段階まできており、現在オリンピックを利用して韓国を引き込み”時間稼ぎ作戦”を繰り広げている最中である。このまま順調に時間稼ぎを続けて核開発を完成させるのが北朝鮮にとって最もいいシナリオであり、核兵器完成間近の今のタイミングで生物兵器を使ってアメリカを攻撃し、報復攻撃の機会を与えるのは完全な愚策である。
ゆえに今回の騒動は北朝鮮のたくらみではなく、アメリカ国内の反トランプ過激派の暴走ではないかというのが私の見立てだ。いずれにせよこれだけ大事の可能性があり、見方によっては「次は本物の炭疽菌を送るぞ」という脅しにもとれる事態である。FBIが黙ってはいないだろう。

それはそれとして、北朝鮮生物兵器という点ではもうひとつ、考慮すべきものがある。それは北朝鮮炭疽菌と並んで生物兵器として隠し持っているという「天然痘ウイルス」だ。こちらは致死率こそ最大50%ほどと肺炭疽症と比べて低いものの、生物兵器として使用される場合には通常以上に活性化され致死率も高いものが使用されることが想定され、さらに人から人へ感染するという点で炭疽菌よりも凶悪だ。
WHOによると天然痘は1980年に地球上から根絶された。それ以降、予防接種はされておらず、またそれ以前に予防接種を受けた人でも免疫の持続期間は最大10年であるため既に失われている。つまり人類は天然痘ウイルスの生物テロに対しては丸裸なのだ。
米CIAによれば北朝鮮天然痘ウイルスを所有しているのは間違いないという。日本はその地理的条件から、朝鮮半島有事の際には北朝鮮からの難民が押し寄せると考えられている。すでに日本海側の海岸線では北朝鮮の漁民などが漂着しているというニュースも年末ごろ大きく取りざたされたが、最近はほとんど取り上げられなくなっている。もし、そのような難民や漁民の中に、天然痘ウイルスの感染者がいたら?
国会でも自民党参議院議員青山繁晴氏がこれについて言及していたが、朝鮮半島有事はもう喫緊に迫っているというのに現状の対策は不十分だ。せっかくの国会会期である。くだらない政治家のスキャンダルやそれ以下の疑惑ばかりでなく、こういった国民の生命を左右する重要な問題について議論を交わしてほしいものだ。