News: HARDBOILED

ハードボイルドにニュースの解説をします。

2018年4月13日 19歳警官が上司を射殺

毎日新聞】銃弾、頭部を貫通 至近距離から狙う?

 滋賀県彦根市の同県警彦根河瀬駅前交番で11日夜、男性巡査(19)が上司の井本光(あきら)巡査部長(41)を拳銃で射殺したとされる事件で、発射した2発のうち1発は頭部を貫通していたことが13日、捜査関係者への取材で分かった。明確な殺意を持って至近距離から殺害した可能性があるとみて調べている。

 捜査関係者によると、1発は後頭部から前頭部を抜け、交番内の床で発見された。背中に撃たれたもう1発は体内に残っていた。巡査は「巡査部長の背後から拳銃を撃ち、殺したことは間違いない」などと供述しており、県警は井本巡査部長が後ろを見せた隙(すき)に発砲したとみている。

 発見時、井本巡査部長は椅子に座り、机に突っ伏した状態だった。男性巡査は「巡査部長は椅子に座ったまま前に倒れ、ぴくりともしなかったので死んだと思った」と供述し、交番の防犯カメラにも逃走する姿が映っていることから、救命措置などをせず逃げたとみられる。県警は13日午後、男性巡査を殺人容疑で大津地検に送検した。【小西雄介、西村浩一】

(https://mainichi.jp/articles/20180413/k00/00e/040/259000cより抜粋)

 

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(画像は事件現場となった彦根河瀬駅前交番。滋賀県警ホームページ[www.pref.shiga.lg.jp]より抜粋)

 

 19歳の警官が上司を拳銃で射殺するというインパクトのある事件だ。拳銃は銃器の中では貫通力はさほど高くないが、放たれた2発のうち1発は頭部を貫通していることから、容疑者は明確な殺意をもって至近距離から発砲したとみられている。警察が同僚を殺害する事件は初めてだ。

 ワイドショーやニュース番組ではこの事件を取り上げて「最近の若者は我慢が足りない」だとか「配属されてすぐの犯行であり、教科書で習ったことと現実とのギャップを受け入れられなかったのではないか」といったような、容疑者の精神的未熟さに原因を求める向きが強い。中には20歳未満の未熟な警官に銃を貸与するのをやめさせるべきだという意見もある。
 なるほど確かに容疑者自身の未熟さも原因の一つかもしれない。しかし、この事件においてはそれだけで話を終わらせてはならない、もっと重大な原因がありそうだ。

 報道によると、被害者の巡査部長は容疑者の教育係であり、容疑者は被害者に日常的に罵倒されていたという。事件に至った発砲のきっかけも被害者からの罵倒を受けてということだ。
となれば、容疑者は被害者から日常的にパワーハラスメントモラルハラスメントを受けていた可能性が高い。特別差し迫って危険が及ぶ状況などでない限り、立場の弱い新人を怒鳴りつける行為、それも日常的にというのは通常の教育係の教育行動とは言い難い。
ただでさえ警察官の世界は体育会系の色が濃く厳しい上下関係がある。自覚しているいないにかかわらずそれを利用してパワーハラスメントモラルハラスメントを行うことが容易な状況であっただろう。
 つまり、容疑者には被害者を憎悪するだけの充分な理由があり、普段から憎悪を募らせていて、ついに我慢の限界を超えてしまったのではないか。

 ハラスメントの恐ろしいところは、やっている側に自覚がないところだ。「このくらい俺たちの時代では普通だった」とか「このくらい我慢できないようではこの先勤まらないぞ」といったような自己正当化もありがちだ。しかしその実これらは理不尽なハラスメントを相手にそれらしく押し付けて自分が優越感を得るための甘えに過ぎない。

 また被害者は41歳の巡査部長だが、41歳と言えば就職氷河期の世代であり、同世代が就職難にあえぎ、非正規雇用に甘んじている中で警察官という世間的には『立派』とされるような職に就き、41歳までには巡査部長まで昇進している。これに関しては相当な努力をしてきたことだろうが、それゆえに選民思想と紙一重の行き過ぎた自己肯定感や自尊心を形成していた可能性もあるだろう。
 またなまじ努力して成功を掴んできただけに、他人にも必要以上の強い心理的・業務的負荷をかけ、独自の解釈による『努力』を強制するような心理が働いたとしてもおかしくはない。
 
 今回の被害者がどの程度苛烈なハラスメントを行っていたかは現時点では不明だが、少なくとも罵声を浴びせる行為は既に報道されている通りあったようで、ハラスメントがなかったとは言えない状況だ。
 被害者は殺人を犯しているという点で擁護はできないが、その精神的な未熟さばかりを問うのではなく、事件を誘発した背景にハラスメントという上の立場の者の甘え、教育係としての未熟さや不適格さがあった点も見逃してはならないニュースである。