News: HARDBOILED

ハードボイルドにニュースの解説をします。

2018年2月19日 米フロリダ州の高校での銃乱射事件を受け、銃規制強化を求めるデモ

朝日新聞】政治家に「恥を知れ」 現場近くで銃規制強化求めるデモ

 米フロリダ州南部の高校での銃乱射事件を受け、現場近くの拠点都市フォート・ローダーデールで17日、銃規制強化を求めるデモ集会が開かれた。事件が起きた高校の生徒も参加し、トランプ大統領ら規制に消極的な政治家らに「恥を知れ」と訴えた。

 元生徒のニコラス・クルーズ容疑者(19)が半自動ライフル銃を乱射した事件では、生徒ら17人が犠牲になった。CNNテレビによると、集会で登壇した同校生徒のエマ・ゴンザレスさんは「友達と週末の予定を立てる方が銃を買うよりも難しいなんて到底理解できない」と、同州の銃規制の緩さを批判した。

 米国では乱射事件のたびに規制強化を求める声が強まるが、トランプ大統領共和党議員らに献金し、強い政治力を持つ「全米ライフル協会」(NRA)の抵抗で進んでいないのが現状だ。ゴンザレスさんが「NRAから献金を受け取っている政治家は恥を知れ」と気勢を上げると、参加者も同調した。

(https://www.asahi.com/articles/ASL2L43P4L2LUHBI00L.htmlより抜粋)

 

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(画像はWikipediaの同事件の項目より、現場に集結するパトカーと救急車)

 


 先日の米フロリダ州の高校で起きた銃乱射事件を受け、アメリカの銃規制が進まないことについて触れる報道が日本国内でも増えている。今日の朝日新聞では事件現場近くで銃規制強化を求めるデモが行われたことを取り上げている。デモ参加者はこのような事件が起こっても銃規制強化を打ち出さないトランプ大統領を批判している。
 日本でこのようなニュースを眺めていると「なぜこんなに悲惨な事件がたびたび起こっているのに、アメリカは銃規制に踏み切らないのだろうか」と思ってしまいがちだ。しかしその背景にはそれなりの理由がある。

 

 まず、テレビ等で指摘されている通り、トランプ大統領は大統領選挙の時に全米ライフル協会の支援を受けていた。この全米ライフル協会は政治の世界の大きな影響力を持っており、ここに配慮して大統領は銃規制を言い出せないのだという論である。
 これは確かに一つの側面ではあると思う。しかしトランプ大統領は自信のツイッターで「(野党の)民主党オバマ政権で上下両院の多数を押さえていた時になぜ銃規制の強化をしなかったのか。本当はしたくないからだ。(規制強化の訴えは)口だけだ」とツイートし、野党からこれについて突っ込まれることをけん制している。このトランプ大統領の意見にも、言われてみれば確かにと頷かせる説得力がある。野党や野党支持のマスコミはトランプ大統領を批判しにくくなった。
 そもそも、日本人は銃と聞くと「人を殺す道具」と思ってしまいがちだ。しかしアメリカ人にとっての銃は「護身具」であるという側面も強い。
 アメリカのように銃が既に流通してしまっている社会の場合、トラブルが起きた時に相手が銃を持っている可能性がある。このとき自分が銃を持っていない場合、相手に対して一方的に弱い立場となる。交渉であれば相手の言い分を一方的に飲まなければならない状況だ。しかしそこで自分も銃を持っていれば、相手の銃の権威はなくなり、対等な立場となる。銃を実際に打つかどうかは関係ない。互いに持っていること自体が平等の条件であり、片方が持っていて片方が持っていない状況では銃の引き金が引かれるまでもなく、弱者は一方的に強者の言いなりになるしかないのだ。
 もし仮に現在の、すでに銃が流通してしまっている社会で銃の所持規制が敷かれたとしたら、を考えてみよう。善良な一般市民は皆銃を手放す。しかし、銃乱射事件を起こすようなガラの悪い者、あるいは他の犯罪者、日本で言うヤクザのようなや暴力団体など、言わば「治安の悪い人たち」は銃を手放すだろうか? 隠し持っているのではないか? つまり、善良な一般市民の護身具を取り上げる結果にしかならないのだ。これではアメリカが現実的に銃規制を強化できるはずがない。
 理想は皆で一斉に放棄することだが、一人でも抜け駆けして隠し持っている者がいれば、秩序と治安が崩れてしまう。これは核兵器廃絶問題と似ている。一国だけが核兵器を持っている状態では他国は言いなりになる事しかできない。しかし多数の国がお互いに所持している状態では抑止力となり、使う使わないにかかわらず所持していること自体が自衛となり、対等な関係を示す道具になる。
 是非は別として、現実問題としてアメリカの銃規制は非常に難しい。日本人に染みついた「和を持って尊しと為す」の考え方だけで安易に銃規制が必要だと言うのではなく、よりリアリスティックに考える必要がある。

2018年2月13日 トランプ氏の長男に白い粉入り郵便物

【読売新聞】トランプ氏長男に白い粉入り封筒、妻ら病院搬送
 ロイター通信などによると、トランプ米大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏宛ての封書から白い粉末が見つかり、開封したジュニア氏の妻バネッサさんらが12日、病院に搬送される騒ぎがあった。

 粉末は有害物質ではなく、けが人はいないという。

 同通信によると、バネッサさんは同日午前、ニューヨーク・マンハッタン中心部の母親の自宅で封書を開けた後、気分が悪くなったと訴えた。バネッサさんや母親ら3人が、通報を受けて駆けつけた消防隊員らによって病院に搬送され、念のため検査を受けたが、健康状態に問題はない。

 ニューヨーク市警などが捜査中で、封書はボストンの消印が押されていた。一部メディアは白い粉末は「コーンスターチ」だったと報じている。

(http://www.yomiuri.co.jp/world/20180213-OYT1T50023.html?from=ytop_main6より抜粋)

 

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(画像は炭疽菌)


アメリカのトランプ大統領の長男であるジュニア氏宛ての正体不明の郵便物に”白い粉”が入っていて、開封した妻のバネッサさんらが念のための措置として病院に搬送されたという。
このニュース、”白い粉”の正体はコーンスターチだったという話で、要は「いたずら」であるのだが、それだけで終わらせてはいけない大問題だ。

と言うのもアメリカでは以前、同様の手口でテロ事件があったのだ。
日本人は”白い粉”というと麻薬などの薬物を想像しがちだが、今回の場合考慮しなければならないのは生物兵器だ。2001年、アメリカで郵便封筒に「炭疽菌(たんそきん)」という菌を入れたものがテレビ局や出版社などの大手メディアや上院議員宛てに送られ、5名が「肺炭疽症」という病気を発症して死亡、17名が負傷した。この事件は同年の同時多発テロから数日後のことであり、アメリカ中が大騒ぎになった。

炭疽菌に感染すると「炭疽症」という病気になる。感染経路によって症状が変わるが、皮膚の傷口から菌が体内に侵入する「皮膚炭疽症」や炭疽菌に汚染された食品を摂取して感染する「腸炭疽症」がある。治療を受けなかった時の致死率は皮膚炭疽症で20%強、腸炭疽症では最大60%と言われている。ただ、炭疽菌は菌であるため、抗生物質で治療ができる。ゆえに皮膚炭疽症や腸炭疽症であれば命に別状はほとんどない。
しかしもうひとつ、炭疽菌の芽胞を吸い込んでしまうことで発症する「肺炭疽症」というものがある。これが非常に危険なのだ。初期症状は風邪に似ているのだが、風邪だと思って放置すると24~36時間以内に死亡する。致死率はほぼ100%だ。重症化してからでは抗生物質の投与もほとんど無意味で、検査についても炭疽症を疑って検査をしなければ見逃す可能性が高い。

このような特性から、炭疽菌はアメリカでテロに使われただけでなく、かつてのソ連イラクなどの国が生物兵器として開発していたと言われている。また、驚くべきことに日本でもあの「オウム真理教」(現在ではアレフなど名称を変更しいくつかの分派に分かれている)が国会議事堂や皇居周辺で炭疽菌を散布したテロ事件があるが、このテロは失敗に終わっている。オウム真理教についてはご存じの通り、テロが成功してしまった地下鉄サリン事件のほうが有名だ。

そしてこの炭疽菌、今現在アメリカと火花を散らしている北朝鮮とも関係がある。北朝鮮炭疽菌生物兵器としてほぼ確実に開発しており、米科学者連合(FAS)や米国防総省をはじめ様々な研究機関が北朝鮮はほぼ確実に生物兵器としての炭疽菌を所有していると警鐘を鳴らしている。
ここまでくればなぜ今回の不審郵便物が大きな問題と言えるかはわかるだろう。この郵便物は北朝鮮工作員トランプ大統領の周辺人物を暗殺するテロ行為のために用意したものの可能性があるのだ。

しかし、これはあくまで可能性があるという話に過ぎない。私は実際のところ、今回北朝鮮は無関係ではないかと考えている。と言うのも昨年12月の米CIAの発表によれば、北朝鮮の核開発は「あと数ヶ月で完成」の段階まできており、現在オリンピックを利用して韓国を引き込み”時間稼ぎ作戦”を繰り広げている最中である。このまま順調に時間稼ぎを続けて核開発を完成させるのが北朝鮮にとって最もいいシナリオであり、核兵器完成間近の今のタイミングで生物兵器を使ってアメリカを攻撃し、報復攻撃の機会を与えるのは完全な愚策である。
ゆえに今回の騒動は北朝鮮のたくらみではなく、アメリカ国内の反トランプ過激派の暴走ではないかというのが私の見立てだ。いずれにせよこれだけ大事の可能性があり、見方によっては「次は本物の炭疽菌を送るぞ」という脅しにもとれる事態である。FBIが黙ってはいないだろう。

それはそれとして、北朝鮮生物兵器という点ではもうひとつ、考慮すべきものがある。それは北朝鮮炭疽菌と並んで生物兵器として隠し持っているという「天然痘ウイルス」だ。こちらは致死率こそ最大50%ほどと肺炭疽症と比べて低いものの、生物兵器として使用される場合には通常以上に活性化され致死率も高いものが使用されることが想定され、さらに人から人へ感染するという点で炭疽菌よりも凶悪だ。
WHOによると天然痘は1980年に地球上から根絶された。それ以降、予防接種はされておらず、またそれ以前に予防接種を受けた人でも免疫の持続期間は最大10年であるため既に失われている。つまり人類は天然痘ウイルスの生物テロに対しては丸裸なのだ。
米CIAによれば北朝鮮天然痘ウイルスを所有しているのは間違いないという。日本はその地理的条件から、朝鮮半島有事の際には北朝鮮からの難民が押し寄せると考えられている。すでに日本海側の海岸線では北朝鮮の漁民などが漂着しているというニュースも年末ごろ大きく取りざたされたが、最近はほとんど取り上げられなくなっている。もし、そのような難民や漁民の中に、天然痘ウイルスの感染者がいたら?
国会でも自民党参議院議員青山繁晴氏がこれについて言及していたが、朝鮮半島有事はもう喫緊に迫っているというのに現状の対策は不十分だ。せっかくの国会会期である。くだらない政治家のスキャンダルやそれ以下の疑惑ばかりでなく、こういった国民の生命を左右する重要な問題について議論を交わしてほしいものだ。

2018年2月5日 沖縄県名護市長選挙で新人渡具知氏が現職稲嶺氏に勝利

産経新聞】安倍政権支援の渡具知氏が初当選「名護を変えての思い」
米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾(ぎのわん)市=の同県名護市辺野古移設問題が最大の争点となった名護市長選は4日、投開票され、無所属新人で元市議の渡具知武豊(とぐち・たけとよ)氏(56)=自民、公明、維新推薦=が、3期目を目指した無所属現職の稲嶺進氏(72)=民進、共産、自由、社民、沖縄社大推薦、立民支持=を破り、初当選を決めた。投票率は76・92%で、前回(76・71%)を0・21ポイント上回った。

 安倍晋三政権が全面支援した渡具知氏の勝利で、辺野古移設を加速させる環境が整い、移設の早期実現へ大きく前進しそうだ。

 初当選を決めた渡具知氏は「当選は『名護を変えて、もっと発展させてくれ』というみなさんの思いだと思う。これからが大事だ」と強調。普天間飛行場の名護市辺野古への移設については「国と県が係争中なので注視していく」と述べた。

 名護市長選は、辺野古移設を着実に進めたい安倍政権と、反基地を貫く「オール沖縄」勢力の象徴、翁長雄志(おなが・たけし)知事による「代理戦争」の構図だった。今秋に控える知事選の前哨戦にも位置づけられ、両陣営は国政選挙並みの総力戦を展開した。

(http://www.sankei.com/politics/news/180204/plt1802040020-n1.htmlより抜粋)

 

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(画像は渡具知氏の公式ホームページ)


 沖縄県名護市の市長選挙が2月4日に投開票され、無所属新人で元市議の渡具知(とぐち)氏と無所属現職の稲嶺氏の一騎打ちの結果、渡具知氏が当選した。
 沖縄県名護市と言えば宜野湾(ぎのわん)市のアメリカ軍普天間飛行場を名護市辺野古へと移設する話が拗れに拗れていることで有名なあの名護市である。現職の稲嶺氏は翁長沖縄県知事の支援を受け、反対の姿勢を強く打ち出していた。
 今回の選挙戦でも稲嶺氏が辺野古移設反対を訴える一方、渡具知氏は移設問題については「国と県が係争中なので注視していく」と中立的な立場を述べるにとどめ、むしろ市民生活の向上や経済振興などを強調したという。またその中で政府とも協調し、稲嶺市政下では停止していた米軍再編交付金を活用した地域活性化を謳った。

 

今回の渡具知氏勝利には2つのポイントがあると感じる。

 

ひとつは、米軍飛行場の辺野古移設問題である。もともと移設の話は普天間飛行場周辺が住宅街であり、危険だからということで持ち上がったのだ。それが着々と準備が進められていた中、民主党政権時に鳩山元総理にひっくり返され、今まで翁長知事を中心に強硬な反対活動が続けられてきた。しかしここのところの北朝鮮情勢の緊張に伴い米軍の訓練も過激さを増し、以前よりも緊急着陸などのトラブルが増加。普天間飛行場隣の小学校校庭にヘリの窓が落下した事故は非常にインパクトが強かった。これを受け、今まで辺野古移設に反対していた住民も「そうはいってもやっぱり普天間は危険だよね、移設の必要があるよね」と思ったのではないか。

 

 もうひとつは経済政策である。
今回の選挙については尾長知事の後ろ盾を持つ稲嶺氏と、自公政権の後ろ盾を持つ渡具知氏による代理戦争だとする面が大きく伝えられている。
 しかし、今回の選挙は移設問題の是非を問う国民投票ではなく名護市長選挙である。名護市の市政にとって移設問題は数ある課題のうちのひとつでしかない。大きなひとつではあるものの、移設問題と反米アピールにばかりうつつを抜かさず、しっかりと足元の経済を地固めすることを宣言したのが渡具知氏の勝因だろう。
 これは国政でも言えることだが、ある大きな政治的問題があるとき、それに対する意見、つまり辺野古移設推進と反対などは選挙の争点になりやすい。しかし有権者が一般により強い関心を持つのは自分たちの暮らしであり、経済政策である。
国政で野党がいくらモリだカケだ、あるいはアベノミクスは失敗だと声を上げても肝心の選挙で勝てないのは、アベノミクス以上の経済政策が打ち出せていないからに他ならない。「アベノミクスは失敗だ」ではなく「私ならアベノミクス以上に国民の皆様の生活を楽にできます」と言わなければならないのだ。
今回の名護市長選においても「稲嶺氏よりも渡具知氏の方が私たちの生活に関心を寄せてくれている」「渡具知氏の方が私たちの財布を潤わせてくれる」と思った有権者が多かった結果が今回の渡具知氏の勝利に表れているのではないか。

 

もうひとつ、私が注目したのは、現職の稲嶺氏が72歳であるのに対し、新市長の渡具知氏が56歳である点だ。72歳と言えば一般企業で言えば定年を迎え、雇用延長の期間も終え、もうすっかりリタイアして年金生活をしている年齢だ。それに比べて56歳、まだまだ生産年齢人口に数えられる渡具知氏の方が、これからの名護市と名護市民の生活についての責任を負うことができると考える。また一般論として、若い人の方が現状に即した柔軟な発想ができるだろう(56歳を「若い」と言うのも違和感があるが)。名護市民が選んだ新人市長の今後の市政に期待したい。

2018年1月30日 核使用なら北朝鮮は…「地図上から消える」韓国国防相

朝日新聞】核使用なら北朝鮮は…「地図上から消える」韓国国防相

 韓国の宋永武(ソンヨンム)国防相は29日、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮について、「もし開発した核を米国や韓国に使った場合、おそらく地図上から消える」と述べ、実際に核を使用することはないだろうとの見方を示した。訪問先のシンガポールで記者団に語った。

 北朝鮮の核は「使えない核」だと強調することで、南北協議再開後も米国などで消えない北朝鮮への軍事行動論を牽制(けんせい)するねらいがあるとみられる。

 北朝鮮が核の使用をちらつかせるのは金正恩(キムジョンウン)政権の「宣伝扇動の戦略」にすぎないとも述べた。北朝鮮の行動は「韓国や米国に(内政に)干渉しないでほしいという意思表示だ」との考えも示した。

 宋氏はこの日、英国際戦略研究所主催の安全保障フォーラムに出席。韓国の対北朝鮮政策などについて基調講演を行い、「制裁や圧力は北朝鮮を対話に引き入れるためであり、罰するためではない。対話と交渉により平和的に対応していく」などと述べた。(シンガポール=守真弓)

(https://www.asahi.com/articles/ASL1Y6535L1YUHBI01W.html?iref=comtop_8_08より抜粋) 

 

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 韓国の宋永武(ソンヨンム)国防相が北朝鮮情勢について、ある種インパクトのある発言をしている。もしも北朝鮮が開発した核兵器を使用したら、北朝鮮は地図から消えるだろうというものだ。

 

 もちろんこの「地図から消える」は物理的に消滅するわけではなく、北朝鮮という国家の崩壊を意味する。発言の意図としては、北朝鮮核兵器を使用したらすぐにアメリカが北朝鮮を報復攻撃し、北朝鮮はそれに耐えられないという受け取り方でいいだろう。

 アメリカ軍は実際にその能力を持っている。昨年にはアメリカのマティス国防長官が、北朝鮮が反撃できない方法で北朝鮮を叩き潰すことができる旨の発言をしていた。これは「瞬殺作戦」ができるという意味だ。

 ただし、アメリカにはアメリカが正義で北朝鮮が悪であるという大義名分が必要だ。報復攻撃ならできても、先制攻撃はできない、とほとんど言っていいほど慎重になる必要がある。つまり、アメリカが北朝鮮に攻撃するには北朝鮮からの先制攻撃が必要なのだ。

 しかし北朝鮮もそれをわかっている。何か一つアクションを起こせばそれが引き金になるのであれば、目立ったアクションは起こさずじわじわと時間稼ぎをしつつ核開発を進めるのが最適解だ。

 となればアメリカ側にとっては北朝鮮核兵器を完成させる前に、何かのきっかけで先制攻撃を受ける危機を認定し、事実上のアメリカからの先制攻撃に踏み切ることも選択肢に入ってくる。

 

 そこでこの韓国からの「北朝鮮の核は使えない核だ(から、アメリカは不用意に軍事攻撃してくれるな)」というメッセージである。つまり今回の韓国のメッセージは北朝鮮を擁護する立場のものだ。本来は日・米・韓の3国は強調して北朝鮮へ圧力をかけていかなければならない立場と場面であるのに、最近の韓国は逆に北朝鮮に手を貸しているようにも感じるのが残念だ。

 『北朝鮮の行動は「韓国や米国に(内政に)干渉しないでほしいという意思表示だ」との考えも示した』というのも、国際的な軍事問題を内政問題へ転化し、アメリカの関わりを内政干渉と位置付けている。では北朝鮮を放っておいていいのか、と言いたい。

 

 一方で的を射ている発言もある。「制裁や圧力は北朝鮮を対話に引き入れるためであり、罰するためではない」という部分についてはその通りで、もう妥協するしかないというところまで追い詰めるのが制裁や圧力の目的だ。とはいえ、今のところ北朝鮮にそれに応じる姿勢は見えない。

 米CIAの先日の発表によると、北朝鮮核兵器を完成させるまであと数ヶ月だという。この局面でオリンピックを政治利用し、北朝鮮パラリンピック終了の3月まで2ヶ月もの時間の猶予を与えた韓国、なかんずく文在寅大統領の責任は重い。

2018年1月27日 日韓首相、平昌五輪開会式に合わせて会談へ

【読売新聞】日韓首脳、9日会談…安倍首相訪韓へ最終調整

安倍首相は来月9日の韓国・平昌ピョンチャン冬季五輪の開会式に合わせ、9~10日の日程で訪韓する方向で最終調整に入った。

 文在寅ムンジェイン大統領とは9日午後、開会式が行われる「平昌オリンピックスタジアム」近くのホテルで首脳会談を行う方向だ。

 首相は9日夜、五輪開会式に出席。10日は平昌のほか、フィギュアスケートやスピードスケートなどの競技会場がある江陵カンヌンを回り、出場選手らを激励する。同日夜に帰国する予定だ。

 首相の訪韓は2015年11月以来。日韓首脳会談は韓国が今月9日に慰安婦問題を巡る日韓合意についての新方針を発表して以降、初めてとなる。首相は文氏との会談で日韓合意の着実な履行を求めるほか、核・ミサイル開発を進める北朝鮮への圧力路線での日米韓3か国の結束を呼びかける考えだ。

2018年01月27日 06時38分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 (http://www.yomiuri.co.jp/politics/20180127-OYT1T50021.html?from=ytop_ylistより抜粋)

 

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 昨年12月の韓国による慰安婦合意の事実上の破棄により、日韓関係はこれまでにも増して冷え込んでいる。それ以降、安倍首相が平昌五輪開会式に出席しないのではないかという見方がほとんどのメディアで既定路線として語られていたし、私もそう思っていた。

 しかし先日、首相自ら「状況が許せば出席したい」と発言。「状況が許せば」というエクスキューズがついているため、直前になってキャンセルするのではないかと見る向きもあるが、おそらく出席する路線で確定ではないかと思う。

 

 オリンピックは平和の祭典であるというのが建前として言われている。だから政治に利用すべきではないというロジックだ。しかし、今回に関しては韓国・北朝鮮がこれ以上ないほど政治利用しており、これに乗っかってしまうことの方がその政治利用に手を貸す事態になるのではないかとも思う。

 また、韓国の文在寅大統領は安倍首相に出席を要請していたが、トランプ大統領プーチン大統領も出席しないと言われる中、安倍首相にのみそのような要請を出すのは、これもやはり、慰安婦合意反故を受けて日本が欠席することを見込んで「わざわざ誘ったのに日本が断った」という体にするための政治的なアピールにほかならない。

 

 

 安倍首相は開会式出席に合わせて文大統領と会談を行い、慰安婦合意の着実な履行を求めるとしている。しかしその裏には北朝鮮情勢についての調整もありそうだ。

 韓国は日米韓の同盟関係により北朝鮮を封じ込めなければならない今の局面で日本との対立を強調し、北朝鮮のオリンピックを利用した時間稼ぎに手を貸し、足並を乱している。

 おそらく今回の開会式出席にあたって安倍首相はトランプ大統領とも綿密に打ち合わせをしているはずだ。そして日米のメッセージ、つまり「勝手に行動せず足並を揃えろ」というメッセージを伝えに行くつもりではないだろうか。「さもなくば韓国に構わず日米で勝手にやらせてもらうぞ」という部分まで含まれているかもしれない。それならばトップ同士の会談でなければならない必然性がある。

 

 いずれにせよ、安倍首相が開会式に出席することは韓国側への譲歩であり、日本にとってはセットで行う会談の方が重要である。一つだけ心配なのは、文大統領がその会談をドタキャンしないかどうかだ。今の韓国なら充分ありうるだけに気がかりだ。

2018年1月26日 トランプ氏、TPP復帰をほのめかす発言

産経新聞】トランプ米大統領、TPP復帰検討を表明 「有利な協定になるなら」 米テレビのインタビューに


 トランプ米大統領は25日、米CNBCテレビのインタビューで、離脱した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について「かなり有利な協定にできるのなら、TPPを受け入れる」と述べ、米国が改めて協定に参加する用意があるとの考えを示した。復帰を検討する具体的な条件には言及しなかった。

 トランプ氏は「今のTPPはひどい協定だ」と従来の認識を改めて強調し、離脱を決めた昨年の政権の判断を擁護した。一方、TPP参加国との再交渉などを経て、現在の協定より望ましい条件が整うことを前提に、TPP復帰の可能性を示唆した。

(http://www.sankei.com/smp/world/news/180126/wor1801260006-s1.htmlより抜粋)

 

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TPPをめぐるアメリカの姿勢はフラフラしているように見える。当初は参加を前提に交渉していたが、反対派のトランプ大統領が当選すると公約通りこれを破棄して交渉から離脱。しかし今月25日、テレビのインタビューで復帰の可能性を示唆した。トランプ氏は離脱と言ったり復帰と言ったり、主張がひっくり返っているようにも見える。テレビのニュースでは「真意が不透明」などと報道されている。だが本当にそうだろうか。

 

 トランプ氏は言わずもがな「アメリカ・ファースト」である。アメリカの利益になることを第一優先に考え、実行する。トランプ氏が当選した時のTPPはアメリカにとってメリットが充分ではなかったから離脱を表明した。今度は「充分なメリットを調整できるならば復帰するぞ」と言っているわけであり、その姿勢は一貫しているのだ。

 

従来トランプ氏が訴えてきたのはTPPのような多国間協定よりも2国間協定の方が望ましいというもの。これは、TPPでアメリカが得られるメリットよりも個別の協定で得られるメリットの方が大きいという判断だ。
アメリカは経済大国だから、経済分野においては他の国よりも有利な状況にある。TPPではたくさんの国が横並びで条件調整するためアメリカは埋もれてしまうが、2国間協定では利を活かしてイニシアチブを握ることができると考えたのだろう。ましてやトランプ氏は実業家として大成功しており、ビジネスだと割り切った駆け引きによって有利な条件を引き出すことには自信があるだろう。

 

一方、TPP加盟各国にとってはアメリカの不在はTPPの意義を薄くする事態である。TPP加盟国の中でも経済的に大きなパワーがあるのはアメリカと日本。中でもやはりアメリカの存在が大きい。しかしそのアメリカが離脱し、TPP交渉は一時難航した。日本とオーストラリアの働きかけにより再びまとまりを得てついに妥結にこぎつけたが、当初予想されていた規模よりも小さな経済協定になってしまった。特に日本とメキシコはアメリカ経済への依存度も高い。ゆえにアメリカがいつでも復帰できるように働きかけるなどとアメリカにラブコールを送っている状態だ。

 

おそらく、トランプ氏の狙いはこうだ。TPPからアメリカが離脱するとなればTPP各国はアメリカが戻ってきてくれることを望む。それを見越して持ち前の手腕と経済大国アメリカの利を生かしてTPPよりも有利な条件で2国間協定を結んでおき「それよりもさらにいい条件が出せるならTPPに戻ってもいいぞ」と交渉材料にする。TPP各国はアメリカに譲歩してでも復帰してもらった方がより利益が大きくなるので、アメリカに有利な条件を揃えてTPPに迎え入れることになる。そうしてアメリカは最大限の好条件でTPPに参加できる。


TPPからの離脱という、交渉の場をかき乱すようなこともテクニックとして使いながらアメリカの利益を最大にするトランプ氏の戦略が実るかどうかは今後の状況次第だ。
ひとつ言えるのはトランプ氏が日本で世間的に考えられているような「破天荒」「とんでもないことをする」「粗雑で乱暴」という印象とは真逆に、大局観を備えた緻密な戦略家であることは間違いない、ということだ。

 

 日本はこれに惑わされてはならない。アメリカが最大限の利益を得るためにTPPに復帰したいことを逆手に、アメリカを利用しつつ日本の利益を確保していくことが求められる。