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2018年1月26日 トランプ氏、TPP復帰をほのめかす発言

産経新聞】トランプ米大統領、TPP復帰検討を表明 「有利な協定になるなら」 米テレビのインタビューに


 トランプ米大統領は25日、米CNBCテレビのインタビューで、離脱した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について「かなり有利な協定にできるのなら、TPPを受け入れる」と述べ、米国が改めて協定に参加する用意があるとの考えを示した。復帰を検討する具体的な条件には言及しなかった。

 トランプ氏は「今のTPPはひどい協定だ」と従来の認識を改めて強調し、離脱を決めた昨年の政権の判断を擁護した。一方、TPP参加国との再交渉などを経て、現在の協定より望ましい条件が整うことを前提に、TPP復帰の可能性を示唆した。

(http://www.sankei.com/smp/world/news/180126/wor1801260006-s1.htmlより抜粋)

 

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TPPをめぐるアメリカの姿勢はフラフラしているように見える。当初は参加を前提に交渉していたが、反対派のトランプ大統領が当選すると公約通りこれを破棄して交渉から離脱。しかし今月25日、テレビのインタビューで復帰の可能性を示唆した。トランプ氏は離脱と言ったり復帰と言ったり、主張がひっくり返っているようにも見える。テレビのニュースでは「真意が不透明」などと報道されている。だが本当にそうだろうか。

 

 トランプ氏は言わずもがな「アメリカ・ファースト」である。アメリカの利益になることを第一優先に考え、実行する。トランプ氏が当選した時のTPPはアメリカにとってメリットが充分ではなかったから離脱を表明した。今度は「充分なメリットを調整できるならば復帰するぞ」と言っているわけであり、その姿勢は一貫しているのだ。

 

従来トランプ氏が訴えてきたのはTPPのような多国間協定よりも2国間協定の方が望ましいというもの。これは、TPPでアメリカが得られるメリットよりも個別の協定で得られるメリットの方が大きいという判断だ。
アメリカは経済大国だから、経済分野においては他の国よりも有利な状況にある。TPPではたくさんの国が横並びで条件調整するためアメリカは埋もれてしまうが、2国間協定では利を活かしてイニシアチブを握ることができると考えたのだろう。ましてやトランプ氏は実業家として大成功しており、ビジネスだと割り切った駆け引きによって有利な条件を引き出すことには自信があるだろう。

 

一方、TPP加盟各国にとってはアメリカの不在はTPPの意義を薄くする事態である。TPP加盟国の中でも経済的に大きなパワーがあるのはアメリカと日本。中でもやはりアメリカの存在が大きい。しかしそのアメリカが離脱し、TPP交渉は一時難航した。日本とオーストラリアの働きかけにより再びまとまりを得てついに妥結にこぎつけたが、当初予想されていた規模よりも小さな経済協定になってしまった。特に日本とメキシコはアメリカ経済への依存度も高い。ゆえにアメリカがいつでも復帰できるように働きかけるなどとアメリカにラブコールを送っている状態だ。

 

おそらく、トランプ氏の狙いはこうだ。TPPからアメリカが離脱するとなればTPP各国はアメリカが戻ってきてくれることを望む。それを見越して持ち前の手腕と経済大国アメリカの利を生かしてTPPよりも有利な条件で2国間協定を結んでおき「それよりもさらにいい条件が出せるならTPPに戻ってもいいぞ」と交渉材料にする。TPP各国はアメリカに譲歩してでも復帰してもらった方がより利益が大きくなるので、アメリカに有利な条件を揃えてTPPに迎え入れることになる。そうしてアメリカは最大限の好条件でTPPに参加できる。


TPPからの離脱という、交渉の場をかき乱すようなこともテクニックとして使いながらアメリカの利益を最大にするトランプ氏の戦略が実るかどうかは今後の状況次第だ。
ひとつ言えるのはトランプ氏が日本で世間的に考えられているような「破天荒」「とんでもないことをする」「粗雑で乱暴」という印象とは真逆に、大局観を備えた緻密な戦略家であることは間違いない、ということだ。

 

 日本はこれに惑わされてはならない。アメリカが最大限の利益を得るためにTPPに復帰したいことを逆手に、アメリカを利用しつつ日本の利益を確保していくことが求められる。