News: HARDBOILED

ハードボイルドにニュースの解説をします。

2018年3月28日 北朝鮮の金正恩氏が中国の習近平氏と非公式会談

産経新聞】北京訪問の要人は金正恩

 北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長が26日から北京を訪問し、27日までに複数の中国共産党の指導者と会談したことがわかった。中国共産党当局者が明らかにした。

 同当局者によれば、中朝双方は今年初めから金正恩氏の訪中時期などについて交渉していた。中国側は、北朝鮮が核放棄に向けて取り組む姿勢を示すことを金氏訪中の条件にしていたという。今回、訪中が実現したことは、北朝鮮から前向きな回答を得た可能性がある。

 朝鮮半島情勢をめぐり、4月に南北首脳会談、5月までに米朝首脳会談が行われる予定で、金氏は今回の訪中で、最大の保護国である中国の指導者と事前協議を行うものとみられる。

 北朝鮮の最高指導者の訪中は、2011年5月の金正日総書記以来、7年ぶり。金正恩氏の訪中は最高指導者として初めて。

(http://www.sankei.com/world/news/180327/wor1803270030-n1.htmlより抜粋)

 

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 「北朝鮮の要人が中国・北京に訪問しているらしい」という報道がされ始めたのが26日。27日には「どうやらそれは金正恩委員長らしい」と変化し、28日現在は金正恩氏が中国の習近平主席と会談したと報道され、写真も出ている。
 今このタイミングで北朝鮮のトップが中国を訪問する目的といえば、もちろん5月の米朝首脳会談だ。端的に言えば、中国に味方に付いてもらうための根回しである。

 2国間の首脳会談を行う際、まず考慮するのはどこで行うかだ。今回の米朝首脳会談でもここが焦点になっている。

今回の場合、北朝鮮またはアメリカにもう一方の首脳が訪問するというのはハードルが高い。というのも、たとえば金正恩氏が飛行機でアメリカに到着して機内から出てきた瞬間に、潜んでいたスナイパーによって銃撃される可能性を考えるからだ。あるいは、提供された食事に毒が入っている可能性。移動のため用意された車も信用できない。アメリカ側はいくらでも金正恩氏を殺害するチャンスがある。金正恩氏はトランプ氏が絶対にそれをやらないとは信じられないし、トランプ氏が北朝鮮に行くパターンでも同様だ。

 となればどこか第三者の国を仲介人に立て、そちらで会談を行うのが合理的。その候補としてありえると言われているのは韓国・中国だ。
ただし私は韓国については、近年北朝鮮に傾倒しすぎているため公平な仲介人としての役割を期待できないとアメリカが考えるのではないかと思う。また北朝鮮の側から見ればそれでも一応はアメリカの同盟国であり今現在も戦争中の敵国だ(停戦しているとはいえ)。私は韓国よりは中国で開催の可能性が高いと考える。

 なお、スイスも候補として挙げる声がある。スイスは金正恩氏が昔留学していた国であり、縁がないわけではない。そして実際、スイスは9日に自らがその役を引き受けてもよいと名乗りを上げている。スイスにはかつてアメリカとソ連の首脳会談などを開催してきた実績がある。今回の歴史的な米朝首脳会談(結果次第ではノーベル平和賞待ったなし)についてもその結果結ばれる合意に”ジュネーブ合意”と名前が付く可能性を考えれば、スイスにとってのメリットは計り知れないというわけだ。ただ現時点では中国・韓国の方が有力な候補と言えそうだ。

 今回の訪問先である中国については、現時点で最も有力な候補である。しかももともと中国は北朝鮮宗主国北朝鮮と中国の関係は近年冷え込んでいたが、北朝鮮が国際社会の中で立て直しを図るのであれば避けては通れない相手だ。
 今回の訪問は中国の側から招待があり、非公式の形で訪問となったという。中国からすれば米朝首脳会談で北朝鮮がアメリカの側になびくのを防ぐ狙いもありそうだ。

 また注目は、習主席との会談内容だ。中国国内向けの報道では朝鮮半島の非核化について積極的な姿勢を示したとされている。ここでのポイントは「北朝鮮の」非核化ではなく「朝鮮半島の」非核化という点だ。それはつまり北朝鮮が開発した核だけでなく、その延長線上に在韓米軍の撤退が含まれているということだ。アメリカはこれにどう反応するだろうか。
 一方、北朝鮮国内向けの報道では非核化については言及されていない。これは核兵器開発こそが北朝鮮の生き残る道として国内向けに説明してきたことを考慮してのことだろう。

 首脳会談に至る前の段階としてはまだ事務レベル会談、外相会談とステップを踏む。これらは4月から5月上旬にかけて行われる見込みだ。今後、そのタイミングでぽろぽろと米朝の今後を占う情報が出てくるだろう。それが日本や周辺の利害関係国にどのような影響をもたらすか、注目である。

2018年3月23日 韓国・李明博元大統領が逮捕される

産経新聞李明博元大統領を逮捕 韓国検察、朴槿恵被告に続き4人目

【ソウル=桜井紀雄】韓国検察は23日未明までに、巨額の収賄などの疑いで、元大統領の李明博(イ・ミョンバク)容疑者(76)を逮捕した。ソウル中央地裁が22日、検察が請求した逮捕状の発付を認めた。韓国大統領経験者の逮捕は4人目。収賄罪などで公判中の前大統領、朴槿恵(パク・クネ)被告と2代続けて大統領経験者が同時期に刑事責任を問われる事態となった。

 逮捕状発付の審査では通常、容疑者本人の審問が行われるが、李容疑者が出席を拒み、地裁は書類だけで審査。「証拠隠滅の恐れがある」などとして発付を認めた。検察がソウルの自宅で逮捕状を執行し、ソウル東部拘置所に収監された。

 李容疑者は、容疑の大半を否認し、今回の捜査を文在寅(ムン・ジェイン)大統領の左派政権による旧保守政権への「政治報復だ」として強く反発してきた。李容疑者は22日、フェイスブックに「誰かを恨むというより、全ては私のせいだという心情で、自責の念を感じる」との自筆のコメントを掲載した。

 李容疑者は2008〜13年の大統領在任中、情報機関の国家情報院から裏金を上納させたり、李容疑者が事実上の所有者と検察側がみる会社の訴訟費をサムスングループに肩代わりさせたりするなど、計約110億ウォン(約11億円)の賄賂を受け取った疑いが持たれている。韓国メディアによると、検察は約350億ウォンの横領のほか、脱税や職権乱用など計十数件の容疑で逮捕状を請求した。

 李容疑者は14日の取り調べで、国情院からの資金受け取りについては、対北朝鮮工作に充てたとの趣旨で一部認めたとされる。 

(http://www.sankei.com/world/news/180322/wor1803220044-n1.htmlより抜粋)

 

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 (画像は李明博元大統領)


 韓国の元大統領が逮捕されるのも、もはやお約束感がある。
 韓国では歴代の大統領が任期終了後に暗殺されるか逮捕されるかのどちらかになるのが恒例だ。今回の李明博元大統領の逮捕も「ああ、やっぱりね」という話だろう。しかしなぜそのような事態が恒例となるのか。そこには韓国の政治システムの問題、そして権威主義的な考え方がある。

 まず、韓国の前に日本の政治システムについておさらいしよう。法治国家ならどこでもそうしているように、日本においても基本的な原則のひとつに『三権分立』がある。モンテスキューが提唱したこの考え方は、国の権力を立法権・行政権・司法権に分け、それぞれ別立てのシステムで運用するというものだ。独裁者が強すぎる権力を掌握するのを防ぐための策であり、立法・行政・司法のそれぞれが互いに干渉せず、抑制し合うことで均衡を保ち、権力の行き過ぎを防ぐ。日本では立法機能を国会、行政機能を内閣、司法機能を裁判所が担っている。

 では韓国はというと、韓国も法治国家であるしもちろん三権分立だ。しかし日本と違って大統領制なので機能の配分に違いがある。大統領が立法権、議会が行政権、裁判所が司法権を持ったうえで、大統領は行政権と司法権にも一定の影響を持つ。これはアメリカなど、大統領制を採用している国ではどこでも同じだ。韓国も建前上はやはり三権分立と言える。
しかしその実態は大違いである。韓国では行政の統治権が大統領にあり、その時点で三権のうち2つを大統領が掌握している。
そしてこれがまた大きな問題なのだが、司法機能が他の国のように完全に独立しているわけではなく、大統領に忖度したり国民感情に忖度したりする。
例えば朴槿恵前大統領が逮捕された時は、韓国国内で朴氏へのヘイトがかなり高まっていた。韓国司法は「国民感情に配慮して」大統領の罷免を全会一致の賛成で決めたと言われている。反対などしようものならどうなることかという状況だったのだろう。
韓国では司法にしっかりした軸が存在せず、右に左にフラフラしている状態で、三権分立が果たせていないのだ。

そして第二に権威主義的なアピール方法の問題がある。これは韓国に限らず、独裁国家などでよく見られることだが、新しい独裁者が就任すると前の独裁者のことを滅茶苦茶に批判・非難・否定するのだ。これは前の人よりも自分の方が優れている、偉大であるというアピール、つまり権威づけのひとつだ。韓国の場合は独裁制でもないのにこのような権威づけが行われている。それが行き過ぎてしまっているのだろう、元大統領の逮捕や暗殺が恒例となっているのだ。

このような背景からして、今回の李明博元大統領の逮捕も、文在寅大統領の差し金であることが容易に予想される。引用した記事によれば実際に李明博氏は『容疑の大半を否認し、今回の捜査を文在寅大統領の左派政権による旧保守政権への「政治報復だ」として強く反発してきた』という。
今というタイミングは文在寅大統領にとっては権威づけを強化する必要性の高いタイミングだ。もともと文在寅大統領は『大統領になったら真っ先に北朝鮮に行きたい』と言っていたほどの北朝鮮シンパだった。北朝鮮へのサービスのためオリンピックを政治利用し、韓国国内でも批判の声が上がっていた。支持率が落ちかけた今、オリンピックも終わっていよいよ5月の米朝首脳会談を控え、韓国もこれを取り持つ形で仲人役をしようとしている。そのためには足元が揺らいでいるわけにはいかない。1月には李明博元大統領の側近が逮捕されている。その頃より前から着々と準備をしてきたのだろう。

 暗殺は時代が時代なのでやりにくくなっているだろうが、文在寅大統領も数年後、逮捕されているかもしれない。


 余談であるがアメリカでは逆に、前の大統領が新しい大統領に嫌がらせをして去るのが恒例になっているらしい。ホワイトハウスの執務室にあるPCのキーボードから新大統領のイニシャルのキーを取り外しておくという話を聞いたことがあるが、本当だとしたらなかなか嫌らしさとユーモアのある嫌がらせである。

2018年3月19日 プーチン大統領がロシア大統領選で再選

共同通信】ロ大統領選、プーチン氏勝利宣言

 ロシア大統領選は18日、即日開票され、中央選管によると、現職のウラジーミル・プーチン大統領(65)が開票率50%の段階で75.00%を得票し、通算4選を確実にした。プーチン氏は同日夜、モスクワ中心部で支持者を前に演説し「選挙結果は高い信頼の表れだ」と述べ、勝利宣言した。

 プーチン氏は、強い指導者の下での「大国ロシア復活」を主張。国民は、ソ連崩壊後の社会混乱から安定と経済発展をもたらした実績と指導力を評価した。

 有力な対抗候補が不在の中、プーチン氏は国民の高い信任を受けた大統領として2024年までの政権運営に当たる。

(https://this.kiji.is/348197253300683873より抜粋)

 

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 ロシアのプーチン大統領の任期切れに伴う大統領選挙が行われ、再びプーチン氏が圧倒的な得票で選出された。
 プーチン大統領が再選を果たすだろうということは以前から言われていた。プーチン大統領は絶大の人気を誇るし、対抗馬もプーチン大統領と渡り合うほどの力のある人はいない。今回の再選は当然の予定調和とも言える。

 プーチン大統領はロシアにとって「強いリーダー」だ。アメリカのトランプ大統領しかり、中国の習近平主席しかり、日本の安倍首相もそれ以前の首相に比べて格段に「強いリーダー」だ。それぞれタイプは違うが、強いリーダーが求められている時代なのだろう。それは近年のリベラリズム重視の流れから19世紀的なナショナリズムへの揺り戻しでもあると考えられる。先日のイタリアの選挙でも右派政党が勝利した。その流れの象徴が中国の習近平主席とロシアのプーチン大統領である。
 習近平主席は中国国家元首の任期制限を撤廃、事実上の終身独裁者となった。このことを指して「習氏は皇帝になろうとしている」という声もある。
一方ロシアのプーチン氏は選挙という民主的なプロセスを経ているが、実質はプーチン氏一強の独裁体制とも言える。大統領と首相の地位を入れ替えることもあるが、プーチン氏が事実上トップである期間は長期に渡り、これも「ツァーリ(皇帝)のようだ」と言われる。

第二次世界大戦の後、戦後体制によって世界の主要国間で目立った争いは避けられてきたが、近年では国連が形骸化。ロシアのクリミア併合や中国が南シナ海での実効支配を強めるなど、大国による問題行動は国連安保理を麻痺させ、また「イスラム国」の登場により熱を増した中東情勢や核兵器のちらつく北朝鮮情勢をきっかけに、きな臭い動きが目立つようになっている。アメリカは戦術小型核兵器開発を目指しているし、日本でも一部に核武装論がある。ロシアも先日プーチン大統領ツァーリ(皇帝)化によってこれに対応する準備ができている。
こういう情勢ではもともと独裁色の強かった社会主義の国の方がフットワークが軽いのだろう。今後、中国とロシアは世界情勢の中でさらに存在感を増してくる。
日本は中国とは尖閣諸島、ロシアとは北方領土の問題がある。ロシアとは比較的良好な関係が気付けているものの、それは安倍首相とプーチン氏の個人的な友好関係に裏打ちされているもので、政権交代した後は保証されていないし、中国は尖閣諸島へのアプローチを強めてきている。日本もこうした状況への対応を考えなければならない。なにも好戦的になる必要はないが、これまでの70年間のように牧歌的にのほほんとしていればアメリカが守ってくれるという考えをいつまでも持っていてはいけないのかもしれない。
ちょうど、憲法改正自衛隊を明記する議論がある。どのような条文になるかはまだわからないが、自衛隊あるいは自衛権の行使がしやすくなれば、諸問題へのけん制になるだろう。

2018年3月13日 森友文書、理財局の指示により書き換え

【読売新聞】文書書き換え、理財局が指示佐川答弁に合わせ

 財務省は12日、学校法人「森友学園」への国有地売却に関する決裁文書を巡り、問題発覚後の昨年2月下旬から同4月に14の文書が書き換えられたとする調査結果を国会に報告した。

 

 当時同省理財局長だった佐川宣寿・前国税庁長官の答弁と整合性を取るため、学園との価格の事前交渉をうかがわせる記述や、複数の国会議員の働きかけなどの記載が削除された。野党側は安倍首相や麻生副総理兼財務相の責任を追及しており、首相は厳しい政権運営を強いられそうだ。

 

 首相は12日、首相官邸で記者団に「行政全体の信頼を揺るがしかねない事態で、行政の長として責任を痛感している。国民の皆さまに深くおわびしたい」と陳謝した。その上で、「全容を解明するため、麻生財務相にはその責任を果たしてもらいたい」と述べ、麻生氏を続投させる考えを強調した。

 

 財務省は、書き換えは理財局の指示により、理財局と近畿財務局の一部の職員により行われたと説明。麻生氏は12日、「書き換えは、最終責任者が(当時の)理財局長の佐川氏ということになる」と記者団に語った。自身が書き換えを知ったのは「3月11日だ」とした。

  

(http://www.yomiuri.co.jp/politics/20180312-OYT1T50082.htmlより抜粋)

 

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(画像は財務省)

 

 連日報道されている森友学園への国有地売却の決裁文書を巡る書き換え疑惑が大きく進展した。財務省14件の書き換えがあったとする調査結果を発表したのが12日のことだ。

 この問題には論じる点が2つある。まず1点はくだんの「書き換え」自体が、そもそも悪いことなのかどうか。そして2点目は、書き換えが誰の指示で、どのような目的で行われたかである。

 

 まず「書き換え」自体が悪いことかどうかだが、大雑把に良いか悪いかで言えば悪いと考えるが、書き換えそれ自体は必ずしもそうではない。というのは、書き換えられたのは決裁文書そのものではなく『決裁文書に添付した調書』である。これは大きな差で、言ってみればただの添付資料。刑事事件としての「公文書偽造」ではないのだ。ここはしっかり押さえておく必要がある。そもそもこれが違法なことであったならば「書き換え」というふわりとした言葉でなく「偽造」ときちんと報じられるであろう。

しかしそれでも本件が悪だと言えるのは、それを国会に参考資料として提出しているためだ。資料としての能力がないということになり、それをもとにこれまで議論してきた国会での膨大な時間が無駄だったということになってしまう。また、国会に提出するに先立って書き換えが行われたとなれば、都合の悪い内容を隠そうとした意図が透けて見える。この点については批判されて然るべきだろう。

 

ではその矛先となるべき、書き換えを指示した人物は誰か、そして何の目的だったかについては、引用した読売新聞の記事では「理財局の指示で、佐川前長官の国会答弁との整合性を取るため」だったと報じられている。当時の理財局の長官は誰かといえば、佐川氏だ。また「佐川氏の国会答弁との整合性を取るため」という点については当然、佐川氏は国会答弁で適当なことを喋り、後からそれに合わせて文書の方を捻じ曲げたのか? という疑問を生じさせる。

整理しよう。話はおそらくこうだ。近畿財務局は森友学園への国有地売却でずさんな仕事をしたことを国会で追及され、当時の責任者である佐川氏が国会で答弁した。しかし佐川氏は事実と違う、あるいはよく確認せずに答弁をしたため、決裁文書の添付調書と一部食い違う内容となってしまった。そこで後から佐川氏をかばう形で、当時佐川氏がトップを務めていた理財局の指示により、担当の近畿財務局職員らによって調書が書き換えられたのだ。

 

 ここで重要なポイントは、先述の通り今回の件は公文書偽造には当たらないが、佐川氏が国会で虚偽の答弁をしたとなれば、これについては刑事責任を問われる可能性があるという点だ。また、書き換えを指示した理財局のトップだったのも佐川氏であることから、責任は佐川氏が取るのが道理だが、佐川氏はすでに減給処分などを受け、形としては責任を取っている。ただ、今後追加の措置が課される可能性はあるだろう。

 そして野党は麻生財務大臣兼副総理の辞任や内閣総辞職を求める向きもあるが、まず常識的に言って内閣総辞職はありえない。財務省の一部門が起こした不祥事で内閣や首相が責任を問われるというのは明らかに拡大解釈だ。

 しかし麻生大臣については辞任まで行く可能性が高いと考える。本件の最終責任者は先述の通り佐川氏であり、麻生大臣が辞任する必要は本来ないのだが、問題が大きくなりすぎていて、道理が通っていたとしても国民感情や区切りの付け方といった政治的な判断を下すのが妥当だ。安倍総理は現時点では麻生大臣を続投させ、全容解明の責任を果たしてもらいたいと話しているが、その整理がついたところで(あるいはその前に)財務大臣を辞任するのではないかと思う。その場合、副総理として内閣には残るだろうが、麻生氏、また政権にとって、今回の件が痛手であるのは間違いない。

2018年3月8日 トヨタが5年連続ベア、今年の春闘で3%以上の賃上げへ

共同通信トヨタ、5年連続ベアへ 一時金満額、年3%超調整
 トヨタ自動車が2018年春闘で、ベースアップ(ベア)に相当する賃金改善を5年連続で実施する方針を固めたことが7日、分かった。労働組合の求めるベア月額3千円に対し、前年の妥結額1300円を維持できるかが焦点となりそうだ。年間一時金(ボーナス)の6.6カ月分は満額回答する方向で最終調整する。年収ベースの賃上げは3%を超える可能性が高まった。
 大手企業の回答が集中する14日に向け、春闘は終盤戦を迎えた。安倍政権は経済界に3%の賃上げを求めている。電機、鉄鋼大手は前年水準より上積みを目指す。

(https://this.kiji.is/344067282317345889より抜粋)

 

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 今年の春闘は大注目だ。
 20年続いたデフレをようやく脱却して、物価が上がり始めている。経済再建の条件が整いつつあり、最後の1ピースは賃金という状況で迎える今年の春闘。企業がどこまで従業員の賃金を上げられるかが今後の日本経済を左右する。

 賃金が上がれば人々の生活に今より余裕が生まれ、物価が上がっても消費行動に萎縮しないようになる。結果、企業の業績が上がり、その帰結としてまた従業員の賃金が上がる良いループに入ることができる。緩やかな経済成長が起き、徐々に景気が上向くだろう。結果的に企業にとっても収益アップを見込める。
 しかし仮に今賃金が上がらなければ、経済全体のパイが大きくならないばかりか、先に上がってしまった物価に家計が追い付けず、消費行動の委縮を引き起こすだろう。現在の状況はデフレではなくなっているとはいえ、何かあればすぐにまたデフレに逆戻りしてしまうだろうと言われている。企業にとっては目先の支出は減らせるが、長期的視点で見れば大きな損失を生み出すことになる。

 そこで政府は財界に3%の賃上げを要請している。経団連の榊原会長もこれを受けて各企業に3%の賃上げを促しており、連合はベースアップ2%を含む4%の賃上げを要請と少し強気だ。
 実際、経済評論家の間でも3%の賃上げが実現すれば景気が上向くと言われている。

そこにきて今回のトヨタの賃上げは明るいニュースだ。トヨタはこの5年間ベースアップを続けている。今回は一時金(=ボーナス)6.6か月分の要請通り満額回答と併せて3%以上の見込みということで、日本最大のトップ企業がまず行動で示すことは大いに歓迎したい。
 景気回復の最後の1ピースの邪魔になっているのは経営者のデフレマインドと呼ばれるものだ。デフレが20年も続いたために、デフレの状況に適応して進化してしまった経営者を、再び経済成長の状況に適応するよう引き戻す必要がある。先見の明がある経営者は既にトヨタのように従業員の待遇改善に乗り出している。しかしまだまだ「賃金抑制は良いことだ」「出ていくカネを1円でも減らすことは良いことだ」という意識も根強い。
 実際には「出ていくカネを減らす」ことではなく「出ていくカネを増やし、入ってくるカネをそれ以上に増やす」ことが経済成長であり、企業の成長だ。「減らせ」というだけなら誰が経営者でも簡単に言えることである。しかしこれからまた成長軌道に乗っていこうという今、成長のための戦略を立て、ビジョンを語ることこそが経営者に求められている。
 今回の春闘は失われた5年後、10年後の日本経済を占う重要なイベントとなる。20年をここで終わらせ、失われた30年にしないための歴史の転換点になるかもしれない。

2018年3月6日 朝日新聞が森友文書の書き換えを報じる

朝日新聞】森友文書、財務省が書き換えか 「特例」など文言消える

 学校法人・森友学園大阪市)との国有地取引の際に財務省が作成した決裁文書について、契約当時の文書の内容と、昨年2月の問題発覚後に国会議員らに開示した文書の内容に違いがあることがわかった。学園側との交渉についての記載や、「特例」などの文言が複数箇所でなくなったり、変わったりしている。複数の関係者によると、問題発覚後に書き換えられた疑いがあるという。

 内容が変わっているのは、2015~16年に学園と土地取引した際、同省近畿財務局の管財部門が局内の決裁を受けるために作った文書。1枚目に決裁の完了日や局幹部の決裁印が押され、2枚目以降に交渉経緯や取引の内容などが記されている。

 朝日新聞は文書を確認。契約当時の文書と、国会議員らに開示した文書は起案日、決裁完了日、番号が同じで、ともに決裁印が押されている。契約当時の文書には学園とどのようなやり取りをしてきたのかを時系列で書いた部分や、学園の要請にどう対応したかを記述した部分があるが、開示文書ではそれらが項目ごとなくなったり、一部消えたりしている。

(https://www.asahi.com/articles/ASL317533L31UTIL060.htmlより抜粋)

 

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 朝日新聞が例の『森友問題』について3月2日付の記事で特大の一報を出している。公文書の偽造疑惑だ。朝日新聞によると森友学園の一件が問題として騒がれ始めた後に、決裁文書から都合の悪い部分を消したとしている。野党も国会でこの疑惑について「朝日新聞の報道が真実なら、内閣総辞職ものだ」として追及している。
 確かに公文書偽造が事実であれば大問題である。しかしいくつか引っかかる点はある。

 第一に、朝日新聞によれば「文書を確認した」とのことだが、普通このような文書に関する新聞記事では「入手した」としてその文書を写した写真を掲載するのが普通だ。しかし今回の書き方は「確認した」のみであり、写真もない。朝日新聞の記者が偽造文書の存在を何らかの方法で確認したと主張しているだけで、実物の証拠が一つもないのだ。
「入手した」であれば物自体が朝日新聞社にあるのだという所在もわかるが、今回は肝心の文書がどこにあるのかも不明だ。信憑性は比較的薄いと判断せざるを得ない。

 第二に、これが「事実だとすれば内閣総辞職もの」だと野党は主張している。確かに公文書偽造であればそれほどの大きなインパクトがある話であることは確かだ。しかしその責任が内閣にあるかと言われれば疑問である。
 朝日新聞も書いているように、この書類は財務省近畿財務局の管財部門が局内の決裁を受けるために作った文書である。実際『森友問題』については近畿財務局の仕事がお粗末だった印象は否めない。しかしそれが一気に内閣の責任とするのは飛躍しすぎである。せいぜい近畿財務局の局長や財務省内の監督責任者レベルだろう。内閣が一件一件の案件に個別に関わっているというならば内閣総辞職も頷けるが、そのようなことはありえない。

 そもそも国民の大半は「まだやってるのか」と感じているのではないか。モリだカケだとマスコミや野党が騒ぎ始めてから既に丸1年が経つ。その間「疑惑」はあれこれ出ているが、事実として確認されているものはない。しかも野党は「疑惑」をもってして「潔白であることを証明しろ」と迫っているが、これは悪魔の証明と呼ばれる類のものだ。
 一般の国民が『モリカケ問題』にうんざりしているというのが最もよくわかるのは政党支持率だ。普通はスキャンダルで野党が与党を問い詰めると、与党の支持率が落ち、野党の支持率が上がる。しかし現在、この問題について国会でやればやるほど、逆に野党の支持率の方が落ちている。自らの首を絞める構図だ。ついに希望の党は先日、前代未聞・空前絶後の『支持率0%』を叩き出した。
 国会はワイドショーのスタジオではない。時にスキャンダルの話が出てもいいが、メインはあくまで政策の話であるべきだ。日本には直近に差し迫った解決すべき課題がいくつもある。それらに真面目に取り組む野党がないわけではない。しかし現状ではあまり注目されていないのも確かだ。そのような党が今よりも脚光を浴びて存在感を持ち、国会を生産的な方向に引っ張って行ってくれることに期待したい。

2018年2月23日 消費者物価指数、13ヶ月連続上昇

【読売新聞】消費者物価、0・9%上昇…13か月連続上昇

 総務省が23日発表した1月の全国消費者物価指数(2015年=100)は、値動きの大きい生鮮食品を除く「総合」が100・4となり、前年同月比0・9%上昇した。
 上昇は13か月連続で、上昇率は2017年12月と同じだった。

(http://www.yomiuri.co.jp/economy/20180223-OYT1T50023.htmlより抜粋)

 

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(画像は黒田日銀総裁)

 

消費者物価指数はその名前の通り消費者が触れる物価を表している。指数には3つの指標があり、全品目をまとめた『総合』、天気などの影響を受けやすく経済状況と価格変動の関連が比較的薄い生鮮食品を計算から除いた『コア』、酒類以外の食料および石油・石炭・天然ガスなどのエネルギーを計算から除いた『コアコア』である。
実はこの分類は日本独自のもので、諸外国では日本で言う『コアコア』を『コア』として扱っている。

日本ではアベノミクスにおいてこの消費者物価指数の上昇率が2%程度となるような緩やかなインフレを目標にしている。これはリフレ派の経済政策の考え方に基づくもので、20年も続いたデフレによって縮小した経済市場を混乱が起きない程度のペースで拡大させることで経済全体のパイを広げ、消費や税収を拡大させる狙いだ。
事実、経済関連指標はアベノミクスが一定の効果を上げていることを示している。ただしまだまだ目標には届いておらず、進み方も中途半端なため、充分とは言えないことを付け加えておく。「もっとやれ」である。

今回発表された消費者物価指数は2017年末では前年比1.4%と、まだまだ2%の目標には達していない。経済専門家たちはこの目標を達成するためには今年度の補正予算は5兆円規模で出す必要があると口をそろえていたが、実際に提出され、承認された補正予算は2兆7000億円と、いつも通りの無難な額であった。このことからもたった0.数%と思うことなかれ、2%への道のりがまだまだ遠いことが、経済のニュースに普段触れていない人にも理解できるだろう。

とはいえ、状況は民主党政権下、あるいはそれ以前と比べてかなりよくなっている。実際にデフレからインフレ傾向にわずかながら転じている。
インフレでは物の値段が上がり、デフレでは下がると言うが、これはあまりにも単純に説明しすぎている。ともすれば同じ商品の値段が変わるのだと考えられがちだが、正しくは、インフレでは物の値段とクオリティが上がる。同じカテゴリの商品でもプレミアムラインの品揃えが増え、安くて品質の悪い商品は淘汰されていく。一方デフレではその逆に、同じカテゴリの商品でもプレミアムラインが淘汰され、品質が悪くても安い商品が増えるのだ。
一般消費者も肌感覚で「以前よりもワンランク上の印象を受けるような、高級感のある商品が増えた」と感じるのではないか。

先日、日銀総裁人事が発表され、黒田総裁の留任がほぼ確定した。黒田総裁はこの消費者物価指数上昇率2%を目標に、アベノミクスを支えてきた。黒田総裁の続投は、まだまだこのスタンスでインフレ目標を追っていくと言うメッセージだ。
黒田日銀総裁については、アメリカのフィナンシャルタイムズも「任期前半に過ちを犯したが、それをカバーして有り余るほどの成果を上げた」と高く評価している。任期前半の過ちとは消費増税に賛成したことである。
黒田総裁下の日銀と政府の連携による経済への取り組みは、まだまだ充分とは言えないが方針は間違っていない。今後さらに強化して推進してくれることに期待したい。

一方でなかなか上がらないのは賃金だ。当たり前だがインフレは物価と賃金がともに上がる状況によって実現する。物価だけが上がり、賃金の伸びがイマイチな現状は、スタグフレーションまではいかないものの、もどかしさがある。
こちらも賃金を上げない企業に法人増税を課すことなどが検討されているが、働き方改革の話題とともに一般国民=労働者=消費者の待遇向上を期待できるかといえば、経営者への配慮によって難航しているうえ、働き方改革に関するデータの不備により国会での議論そのものがガタガタしかけている。本来なら野党こそ、労働者の地位向上を訴えてほしいところだが、協調して生産的な議論が行われる気配は今のところなさそうだ。
ただ、期待が持てるのは春闘だ。経団連の榊原会長は政府の訴え通り経営者に3%の賃上げを要請している。私は経団連も榊原会長も基本的には嫌いなのだが、このことは評価したい。さらに連合はベア2%を含む4%の賃上げを要求しており、残るは各企業経営者の判断のみだ。
これまで労働者をさんざん買いたたき、甘い汁を吸ってきた企業がすぐにそのうまみを手放すとも思えないが、社会的要請に応える企業もあることだろう。それがどの程度か、あるいはどこの企業が自分達だけの利益のために全体の足を引っ張るのか、今年の春闘は見ものである。